日本では、手紙文を書く際に、頭語(冒頭に書く言葉)と結語(結びに書く言葉)を入れるのが一般的です。
例えば、「拝啓」で始めて、「敬具」で締めるのが頭語と結語の組み合わせです。
どうして「拝啓」で始めて「敬具」でしめるのか?
「拝啓」は、「拝=つつしんで」「啓=申しあげる」という意味で、「敬具」は、「敬=つつ
しんで」「具=申しあげました」という結びになります。
手紙を出す相手が、媒酌人や恩師などの場合には、より丁寧な頭語と結語を使います。
例えば、「謹啓」←「敬白」などで、「拝啓」←「敬具」と意味的には同じですが、より一層、
丁寧な表現になります。
ちなみに、急用の手紙の場合には「急啓」←「草々」などと書き、時候のあいさつを省略する場合には、頭語を「前略」「冠省」などと書き、結語は「草々」などで結びます。
「草々」とは、「ぞんざいな走り書きで、失礼します」という意味です。
また、死亡通知やお悔やみなど弔事の手紙には、頭語を省くのが習わしです。
「敬具」などの結語は、使ってもかまいません。
なぜ女性の場合は「かしこ」でしめるのか
女性の手紙では、「拝啓」や「謹啓」といった頭語はあまり使わず、「一筆申し上げます」などというような頭語で書き始め、結語も「敬具」などではなく、「かしこ」で終わるのが一般的です。
これには理由があります。
◎平安時代初期までの手紙
おもに男性は、漢文調の文体で手紙を書いており、そのような文体は「男手」と呼ばれました。
◎平安中期以降の手紙
仮名文との併用が始まり、漢字仮名まじり文も使われるようになりました。
◎候文の登場
やがて「候文(そうろうぶん)」と呼ばれる文体が用いられるようになって、「御座候」「御参らせ候」などと、「候」が手紙に多用され、鎌倉、室町、江戸時代でも、男の手紙文の基本は「候文」になりました。
ちなみに、当時は巻紙に毛筆で手紙を書いていたため、句読点をつけませんでした。
「候」がいわば句読点代わりで、現在でも、とくに儀礼的な手紙や、弔問に対する会葬状などでは、句読点をつけないことが多いようです。
◎仮名文字の誕生で変わった手紙
一方、仮名文字が生まれると、初めは貴族や学問僧の間で使われていましたが、やがて女性が手紙を平仮名で書くようになりました。
平仮名は、流麗で女性らしい文字から「女手」「女文字」などと呼ばれ、男性の文体と区別されました。
現在でも、女性の手紙の終わりに「かしこ」と書くのは、そのときの名残です。
「かしこ」とは「恐れ多い」という意味の「畏し」の語幹で、「可祝」「かしぐ」とも書き、「こ
れで失礼します」といった意味になります。