仏教精神の真髄を味わう奥深き「精進料理」の由来

仏教精神の真髄を味わう奥深き「精進料理」

健康は食習慣の改善からと話題になると、決まって注目されるのは日本に昔からある「精進料理」です。
「精進」という言葉には、 一つのことに精神を集中して励むことや、一生懸命に努力することという意味があり、なんだか厳しい修行のイメージがあります。日夜雑念を去り、仏道修行に専心する僧のための料理・・・と言えますが実はもっと深い意味があるのです。

目次

仏教の浸透とともに極められた精進料理

精進料理は6世紀頃、仏教の伝来とともにわが国に入ってきました。
それ以前にも日本では神道などの影響により、肉や魚を避けて身を清らかにする「潔斎」という習慣が一部の階級の間に定着していました。それゆえに精進料理も受け入れやすかったようです。

675年天武天皇によって僧侶の肉食が禁止されます。国の定めからも僧侶の食事内容が限定されることになりました。

奈良平安時代には、比叡山に天台宗、高野山に真言宗がおこります。
このころ、寺院の正式な食事は精進料理が取り入れられ、その形式や作法の原型が生まれました。平安時代の仏教文化は、唐から伝わった戒律を厳守することが重要視されていました。高野山も同様であり、僧侶たちは、酒や肉、魚を避け、五辛や五葷も使用せず、穀物や野菜、果物を中心にした食事を摂るようにしていました。

【基本的な精進料理の献立】
・御飯
・汁物
・漬物
・茶碗蒸し
・揚げ物(油揚げや天ぷら)
・煮物(ごぼうや大根など)
・和え物(野菜や豆腐を味噌や醤油で和えたもの)
・酢の物(野菜や海藻を酢で漬けたもの)
・蒲鉾
・豆腐料理

また、食材の選定や調理法にも厳しい制約があり、例えば醤油は一般的に使用されず、代わりに味噌が使われていたと考えられています。具体的な献立内容については、時代や地域によって異なる可能性がありますが、このような料理が提供されていたと考えられています。

また、それまでは日本の食事習慣は一日二食でしたが、この頃に中国の影響を受けて寺院や貴族の間で三食の習慣が広まり、やがて一般社会にも浸透していったようです。
当時の一般庶民の食事は、貧しい家庭では野菜や果物が中心で、魚や肉はほとんど食べられなかったとされています。一方、豊かな家庭では魚や肉、果物や菓子など、より豪華な食事が提供されたと考えられています。

鎌倉室町時代には仏教の多くの宗派が生まれ、一部の階級に信仰されていた仏教は民衆にも普及していきます。
同時に精進料理も全国に伝わり一般の家庭でも食べられるようになりました。

浄土真宗の開祖親鸞上人は、それまで僧侶に禁止されていた肉食妻帯を許しました。
その代わり、近親者の命日には肉食を避け、身を清める「精進日」を定めます。
この風習が現在でも残っており、近親者の葬儀の際、肉魚を四十九日の法要が終わるまで食さない土地もあります。

ちなみに喪が開けた日に食べる料理を「精進落し」といい、その日以降は肉魚を食べても良い区切りになります。今日のいうところの精進料理の形が整ったのは鎌倉末期から室町時代にかけての頃でしょう。

精進料理という言葉は、江戸時代に刊行された「和漢精進料理抄」という本邦初の精進料理専門書で使われるようになりました。この頃から精進料理は寺院とは別に一つのジャンルを確立させました。

精進料理のこころ

精進料理のこころ

「精進」という言葉ですが、古代インド語(サンスクリット)のビィーリヤの漢語です。
意味は、悪行を制し善行を修する。漢語本来の意味は純粋で充実した心身を磨く。さらに、善も悪も美も醜も、大も小も浄も汚れも真も偽も、宇宙の全てを包み込みいただくことに繋がります。

精進料理は、ご承知のとおり、山菜、野菜、根菜、海草果実、乾燥もの植物性加工品など、動物のように逃げない植物性食物だけで調理した料理のことです。

野菜は血をきれいにし内臓を掃除してくれるとよく言われます。牛や豚、鳥などと違い逃げずに、春夏秋冬に応じて実ってくれます。日本は四季折々の野菜などがいただけます。季節のパワー、宇宙と一体なのです。

和食は「苦味、酸味、甘み、辛味、塩味」の五味が基本ですが、精進料理にはそこに「淡味」が入り、「淡」を尊びます。
「淡味」は素材本来の味を引き出す調理法です。精神性から言えば、「淡」とは仏教でいう中道。つまり、極端に偏らない真っすぐという意味。俗にいう「淡々と」。そして「飽き」がこないので持続します。

僧侶は料理も、食材に敬意を持ち、食べる人の気持ちを考え、手間と工夫を惜しまずに作ることが修行の一つになると考えました。

まごころを込めて丁寧に料理された食事なので食べる側にも相応の心構えが求められます。それが食事の作法に繋がっていくものと考えます。

精進料理と一般的な和食と異なる点

精進料理は、仏教の戒律に基づいているため、肉や魚をはじめとする五葷(ごくん)や五辛(ごしん)など、特定の食材を使用しないことが求められます。代わりに、五味や五色、五法の考え方を基に、豊富な種類の野菜や豆腐、海藻、穀物、果物などを使用した菜食料理が提供されます。

また、精進料理は調理法にも特徴があります。例えば、肉や魚を使わないため、旨味を出すための出汁や調味料として、味噌や醤油、塩、砂糖、みりんなどの代用品が使用されます。また、火を使わない調理法である生のまま食べる料理や、蒸したり、揚げたりといった調理法も多用されます。

さらに、精進料理では、食材の選定や調理法において、季節感や地域性、食感や色彩の美しさにもこだわりがあります。例えば、春には山菜を、夏には冷たい素麺を、秋には栗や松茸を、冬には煮込み料理を用いたり、食材の色彩を生かした盛り付けを行ったりします。

以上のように、精進料理は食材選びや調理法、季節感や美意識など、様々な要素が組み合わさっている、独自の文化的背景を持つ和食といえます。

精進料理を作る僧侶の気持ちとは?

精進料理を作る僧侶は、仏教の教えに基づいて、調理に臨んでいます。仏教では、食事を通じて身体を養い、精神を清めることが重要視されています。そのため、精進料理は、身体に良く、精神にも影響を与えるように、素材選びや調理法に細心の注意が払われています。

料理を作る僧侶たちは、調理の過程で心を清め、仏教の教えを実践することにも意識を向けています。調理においては、食材を傷めないように丁寧に扱い、粗悪なものを選ばないように注意を払い、また、食卓に供する際にも美しい盛り付けや器の選定にもこだわります。

また、精進料理は、身体と心を清めるとともに、共同生活を営むための儀式の一環としても重要視されます。料理を作る僧侶たちは、自分たちの健康や幸福だけでなく、周りの人々の健康や幸福にも気を配り、心を込めて料理を作ることが求められます。

精進料理を作る僧侶たちは、自分たちの生き方を実践することで、自己の成長や向上を目指し、自己実現を図っています。そのため、料理を作る過程での意識や気持ちも、彼らの信仰心や生き方に深く関わっています。

精進料理をいただく際の作法

精進料理は、畳が敷かれた和室で、正座や跪座などの座法に従い、食事をいただきます。

料理の順序
精進料理は、多くの場合、前菜から始まり、煮物や揚げ物、炊き込みご飯などが続き、最後に汁物や甘味が出されます。このような順序で出されることが多いため、料理の味わいが重なり合い、調和のとれた食事を楽しむことができます。

お箸の使い方
お箸の使い方は、和食と同様に、右手で持ち、食べ物を左手で受けるようにします。また、箸先で食べ物をつまむ際に、音を立てないように注意します。

食べ物の味わい
精進料理は、調味料を控えめにして、素材本来の味わいを生かすことが多いため、食べ物の味わいに敏感になると良いでしょう。また、小皿に盛られた料理を完食するのではなく、少しずつ味わって楽しむことが重要です。

お茶の入れ方
精進料理には、お茶が欠かせません。お茶は、深煎りの緑茶が一般的で、淹れ方にも特別な作法があります。お湯を注いだ後は、茶碗を回さず、お茶の薫りを楽しみながらいただきます。

以上が、精進料理をいただく際の作法の一例です。

精進料理を食べるときの心得

精進料理は、動物性の食材を使用せず、自然の恵みを生かした、素材本来の味を楽しむ料理です。
精進料理をいただくときの気持ちは、自然との調和や健康を大切にする心、そして料理人や職人の技術や心意気に感謝する気持ちなどが含まれます。

また、精進料理は禅宗や仏教の教えに基づいて作られることが多く、その思想に共感する方にとっては、精進料理を食べること自体が精神的な浄化や修行の一つとなることもあります。精進料理をいただくときは、ただ単に美味しいというだけでなく、素材や調理法、文化的背景などにも興味を持ち、その料理が伝える意味や思想を理解することも大切です。

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