日本には仏教が伝来してから大きく分けて「真言宗・天台宗・臨済宗・曹洞宗・浄土宗・浄土真宗・日蓮宗」の7つの宗派が存在します。基本的な葬儀の形は似ていますが、少しだけ異なる点もあります。故人の宗派がわかっているのなら、その宗派の教義に沿った葬儀をとりおこなうことが何よりの供養になるでしょう。
また縁のある故人の葬儀に招かれたときに、その家の宗派の葬儀作法がわかっていたほうが恥をかきません。
このページでは真言宗と天台宗のお葬式について基本的な概要を記載しています。
真言宗のお葬式と作法
平安時代に空海が中国へ渡って密教を学び、帰国してからその教えを真言宗として広めたのがはじまりで、とても歴史の長い宗派のひとつです。
真言宗の葬儀は、故人を宇宙の中心と言われる大日如来のいる「密厳浄土(みつごんじょうど)」へ送り届けるという意味を持ちます。
「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」という御宝号を唱え、真言宗独自の儀式があることが特徴です。
厳しい修行を積んだ空海もそうであったように、真言宗は修行に励むことで仏に近づけるという「自力本願」の考え方が基本です。
修行を重ねて生きたまま悟りを開く・・・つまり成仏できるという即身成仏という考え方もあります。
葬儀では僧侶をはじめ参列者が、三密加持【身密(手で印を結ぶ、口意(真言を唱える)、意密(心に仏を想う))を行うことで成り立ちます。
他の宗派にはみられない独特の儀式も盛り込まれます。
●灌頂(かんじょう)
故人の頭から水をそそぎかける儀式です。故人が仏の位に上がるという意味を持ちます。
●砂加持(どしゃかじ)
納棺時に行われる儀式で、土砂を洗い清めて護摩焚きし、本尊の前で光明真言を唱えてからご遺体に振りかけて納棺します。これによって生前の苦悩や罪を取り除き、体が柔軟になると言われています。
【真言宗のお葬式の進行】
①僧侶の入堂
◎塗香(ずこう)、三密観(さんみつかん)、加持香水(かじこうずい)の法
真言宗の葬儀の前にする儀式で、お清めをして印を結び、僧侶が心身を整えます。
◎三礼(さんらい)、表白(ひょうびゃく)、神分(じんぶん)、声明(しょうみょう)
葬儀の場に仏を迎えて褒めたたえ、葬儀の成就を祈ります。
②授戒の儀式
◎剃髪、授戒
僧侶が故人の頭を剃り、戒名を授けて授戒します。
③引導の儀式
◎表白(ひょうびゃく)、神分(じんぶん)、引導の印明
不動潅頂(ふどうかんじょう)、弥勒三種(みろくさんしゅ)の印を授け、故人の即身成仏が果たされます。
④墓前作法
◎破地獄の印明、金剛界胎蔵秘印明、弘法大師による引導の印明、位牌開眼、血脈授与
故人の心の中にある煩悩を取り除き、印明と血脈を授けます。
⑤焼香、出棺
◎焼香、導師最極秘印、出棺
成仏を願う諷誦文(ふじゅもん)が唱えられる中、焼香を行いその後、僧侶が印を組み、指を三度鳴らします。この指を鳴らした音で故人は浄土へ旅立ちます。
【真言宗のお葬式で気をつける作法】
◎焼香は原則3回で、参列者が多い場合は1回に短縮しても良い。
◎振分数珠を使う。
真言宗では玉が108個連なっている振分数珠(ふりわけじゅず)」が正式なもので、裏表に梵天房が2本ずつ付き、108個の主玉、その他に親玉、四天玉、浄名玉、弟子玉、露玉が付いています。合掌時には両手の中指に数珠をかけて、両手をすり合わせてジャラジャラと音を鳴らします。108個の玉を鳴らすことで108個の煩悩を祓うという意味があります。
天台宗のお葬式と作法
平安時代に空海と同時期に中国へ渡った日本の僧侶・最澄が、中国の隋で智顗(ちぎ)という僧侶が開いた宗派の教えを持ち帰り、帰国後比叡山延暦寺に天台法華円宗を創設したのがはじまりです。
天台宗では、全ての人が悟りを開くことができ、悟りを開けば仏となって安楽を得ることができるという教えを説いています。
天台宗は法華経を経典として、朝は「南無妙法蓮華経」の題目を唱え、夕方は「南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ)」の念仏を唱えます。
葬儀ではその他にも「南無阿弥陀仏」の読経もされます。
天台宗の葬儀の目的は、故人の魂を迷いや苦しみのない仏の元へ送るのが目的です。誰でも仏になれるという教えのもと、葬儀でははじめに故人が仏になるための準備(得度作法)を行うのが特徴です。
天台宗のお葬式で重視されるのは次の3つの儀式です。
●顕教法要(けんきょうほうよう)
法華経を読んで懺悔をし、生前の罪を薄くします。
●例時作法(れいじさほう)
「阿弥陀仏」のお経を唱えて、死後の極楽往生を祈ります。また、現世も極楽のように素晴らしい世界になるようにという願いも込められています。
●密教法要 光明真言(こうみょうしんごん)を読み、指で印を作って故人を極楽浄土に導きます。
【天台宗のお葬式の進行】
天台宗の葬儀では「授戒」と「引導」を中心に儀式が行われます。
①通夜
通夜は例時作法(れいじさほう)に則って行われ、阿弥陀経が読経されます。
②剃度式(ていどしき)
戒名授与が行われ授戒となります。
③葬儀
光明真言による葬式作法と引導作法の二部構成で葬儀が進行します。
◎1回目の列讃(れっさん)、光明供修法(こうみょうくしゅほう)、九条錫杖(くじょうしゃくじょう)、・随法回向(ずいほうえこう )
列讃で楽曲とシンバルなどの打楽器が鳴らされ、阿弥陀如来の迎え入れ、故人を仏とする光明供修法、杖を振り声明を唱える九条錫杖、供養をするための随法回向を執り行います。
◎2回目の列讃(れっさん)、鎖龕(さがん)起龕(きがん)、奠湯(てんとう)奠茶(てんちゃ)、歎徳(たんどく)
棺の扉を閉め立てる儀式を行い、霊前に湯茶を備えます。
④引導
⑤下炬(あこ)
人の魂を極楽浄土へ送り出す引導の儀式を行います。その後は松明または線香で空中に梵字と円を描く下炬の儀式を行い、下炬文を読み上げます。
⑥読経
⑦焼香
⑧総回向
光明真言または念仏を唱え、喪主から順に焼香を行います。最後に回向文を唱えて葬儀が終了します。
【天台宗のお葬式で気をつける作法】
◎焼香は3回か1回でとくに決まりはありません。
◎天台宗の数珠は、平玉と言われる薄い円形の玉が使われているのが特徴。
108つの主玉と、天玉が4つ、親玉1つで構成され、親玉から伸びている紐には弟子玉(でしだま)が連なっています。
お参りする際には両手の人差し指と中指の間にかけ、数珠を手で挟むように手を合わせます。房は下に垂らした状態にします。