扇は、和装の装飾品として欠かせないものです。
公式の席には、扇を持参するのは日本人の常識です。
扇には、四つの機能があります。
風を起こして涼をとる本来の使い方のほかに、神を招く器具や、武器としても用いられるのです。
さらに儀礼の場では、扇は相手に恭順の意をあらわすものとして、とてもコミュニケーションにおいても重要な意味をなす道具なのです。
神の魂を招く扇
日本人は、昔から神を招く手段として、拍手をする、鈴を鳴らすなど、空気を揺り動かすことによって神を招くことができると考えていました。
同じ意味で空気を揺り動かすものとして、風を送る扇にも神を招く力があると思われたのです。
和歌山県の熊野那智大社では、七月に扇の祭りがひらかれます。
扇の祭りは十二体の扇御輿が上から降りてきて、かがり火とすれ違い争う儀式を中心とするもの。
この祭りでは神の霊魂が扇に宿ると考えられています。
そういう意味がありことから、和装に用いる扇は、暑いときの備えではなく、神を招く力をもつお守りとされたのです。
扇の由来
扇は団扇(うちわ)ではありません。日本で生まれた物です。
団扇は中国の輸入品ですが、持ち運びに不便なのであまり馴染まなかったようです。
昔の日本ではビンロウジュ(棺榔樹)というヤシ科の植物の葉をうちわの代わりに用いた者がいたそうです。
ビンロウジュの葉を手で握ると、たたむことができます。
そのため、ビンロウジュのうちわは携帯用に便利でした。
しかし植物の葉は、すぐ枯れて使えなくなります。
そのためその葉の機能を、何か工夫して代用できないかと考えたのです。
最初に板と布を使った板扇が作られました。
さらに、板の代わりに紙を用いて、それを細い骨に貼り付けた今のような扇へと発展していきました。
紙の扇は、平安時代半ばの10世紀頃に登場し、貴族社会に浸透していきました。
素材が紙なので、そこに優雅な絵を描いた高価な扇も作って競いあったようです。
扇は、日本の伝統的美の一つ。そして美しい扇に惹かれた人びとが、それを祭祀や儀礼にとり入れていったのです。