お相撲さんが土俵に入る前に塩を撒く姿をテレビで見たことがあったり、玄関の脇に盛り塩がされていたり、お葬式の帰りに身体に塩を振りかけたり、日本には清めの儀式として「塩」をよく用います。
お清めのために撒く塩と盛り塩
日本では、塩は古くから穢れを清めるものと考えられてきました。
そのために塩を用いたお清めは、現在でも多くの場面にみられます。
それには塩を撒く清め方と、盛り塩をして一定の時間をへたのちにその塩を洗い流す清め方とがあります。
葬礼のときには、必ず会葬者に小さな袋に入れた塩が渡されます。
それをもらった者は、家に入る前に塩を目の前に撒いて、死者の穢れを清めるわけです。
大相撲では、取組みの前に土俵を清めるための塩が撒かれます。
大きな手でつかんだ塩を、威勢よく投げ上げる力士の姿は、力強い。
家を建てる前に地鎮祭を行なうときには、神職がお清めの塩と酒を地面に撒く。
神道の家で、毎月一日などの特別の日に、敷地の四方に塩と酒を撒いてお清めをするところもあります。
盛り塩は、飲食店の店先の左右や、神棚などでよく見かけます。
それは皿などに、塩を盛ったもので、海水からとった混ぜもののない塩を用いるとよいといわれています。
寝室や水まわりのそばに、盛り塩をする神道の家もあります。
このような盛り塩は、悪い物を吸い取って水とともに外に流し出してくれるとされます。
また盛り塩をして清めた飲食店の入り口のあたりにはよい気があつまり、客を引き寄せるともいわれています。
古事記に見る伊弉諾尊の禊ぎ祓い
海水には、すぐれた浄化力と殺菌力があります。
そのために古代人は、海水に入って体をきれいにしました。
このような習俗をもとに、伊弉諾尊の禊ぎ祓いの神話がつくられた。
古代人は、神道にもとづいて死や死体を穢れたものと考えていました。
穢れに触れると、病気になったり、生まれながらにもっているきれいな気持ちを忘れて正常な判断ができなくなると考えました。
そしてこの穢れは、お祓いで清められるとされました。
そのために日本人は穢れを避けて生活し、さまざまなかたちのお祓いを行なっています。
神社に参拝することも祓いの一つ。
日本神話は伊弉諾尊は、妻をこの世に呼び戻そうとして死者の住む黄泉国に行ったと記しています。
そして黄泉国から帰った尊は、黄泉国で背負った穢れを清めるために、日向国(宮崎県)の「橘小戸の槍(阿波岐)原(架空の土地)」の海岸で禊ぎ祓いを行ないました。
服をぬいで全身を海水につけることを、「禊ぎ」という。
神道ではこの神話にもとづいて、海水につかることや、水で手や口を洗うこと、塩を撒くことなどによって穢れが祓われると考えたのです。
清めの塩は、つねにきれいな気持ちで生活したいとする日本人の願いをもとにつくられた風習なのです。