なぜ『記紀』が神道の教典になったのか?古事記・日本書紀は宗教書?

なぜ『記紀』が神道の教典になったのか?古事記・日本書紀は宗教書?

なぜ『記紀』が神道の教典になったのか?

神道に経典はなかった

「記紀」とは何でしょう?
あまり聞きなれない言葉だから、まったくわからない人も結構いるのではないでしょうか?

記紀とは、『古事記』と『日本書紀』との総称をいいます。つまり『古事記』の「記」と『日本書紀』の「紀」を併せて「記紀」という。

この「記紀」が神道の経典にあたるものだという説があります。

目次

教典が無い日本独自の宗教が神道

キリスト教なら「聖書」、イスラム教なら「コーラン」、仏教なら「お経」と、宗教にはその教えが詳しく説かれた教典が存在します。

しかし古代からある日本の神道という宗教には、教典がありません。
なぜなら神道は、もともと自然崇拝という形で自然とわきあがってきたものであり、特定の教祖や宗祖によって作られたものではないからです。

日本人の精神に刻まれた教えなので、日本人以外に神道を説明するのはとても難しい。
説明できたとしても、理解してもらうのは不可能かもしれない。

神道は精神的なもの、感覚的なものであるから、宗教的な理論の骨格がなく、大陸から入ってきた体系的な仏教やキリスト教がどんどん広まっていきました。
仏像という目に見える存在がある、聖書という教科書がある、わかりやすいから広まるのも早かったのです。

しかし、そこで神道が消滅したのかといえば、そうではなく他の宗教を信じても神道の教えを捨てることはなく、それは現代日本人にも受け継がれています。

神道の説明書・教科書を求めた人々

他の宗教に触れてみて人々は思いました。神道にも教えを説く教科書、神々の物語が欲しいと。
神社も教典があれば、それをもとに祭祀を行ったり、人々に語り聞かせて教えを広めることができると思いました。

どの神様がどのように生まれ、どのような性質を持っているのかは、祭祀するうえでも重要かつ必要な情報だからです。

そこで神道では、その根拠を『古事記』と『日本書紀』に求めました。

現代も続いている神道は、『古事記』や『日本書紀』の神典にのっとって祭祀を行っています。
記紀が立派に教典として機能している証拠ではないでしょうか。

記紀は歴史書なのか?宗教書なのか?

一般的に記紀は、現存する日本最古の歴史書です。
宗教書、教典だと思って読む人はいないはず。

しかし世界のどの教典も最初は神話の時代からはじまるのと同じく、記紀も『古事記』も『日本書紀』も、物語の始めは世界の創世——神々の時代——から始まっています。

『古事記』は、全体のほぼ3分の1を神代の巻——神々の物語——で占めています。『日本書紀』にしても、全30巻のうち冒頭の2巻は神代についてです。

神代以降は天皇家の物語が延々と綴られていきます。
天皇の祖先は神であるということを、自然な形で日本人の中に浸透させていったことが、現在にも受け継がれる天皇崇拝になっています。
神社の多くは良くも悪くも歴代天皇に由来するところがあります。もちろんその土地の古来から伝わる神を祀っているところもありますが、非業の死を遂げた天皇の霊を神として祀って魂を鎮めるという意味で建てられたところもあります。

『古事記』と『日本書紀』は、諸家に伝わる伝承を一本化し、ひとつの価値観で統一された、天皇家とつき従う氏族の神代にまでつながる壮大な物語を紡ぎだしています。

それはまさに、互いの祖先が神様だった時代から天皇家は世界の中心にいて、各氏族とは今と同じ主従関係にあったのだと説く。こうして互いの立場を合理的に説明し、なおかつ氏族を従属させるという、まさに「神話」の創世そのものだったのです。

その結果、神様の名前と由来もことこまかに記録されました。

神々の系統が重視され、役割もはっきりと記された。それがやがて、神道の教典となっていったのです。

古事記と日本書紀の違い

【古事記】
●成立:712年(和銅5年)
●天皇:元明天皇(第43代)
●選者、構成者:稗田阿礼の暗誦したものを太安万呂が選録
●巻数:3巻
●記述:漢文、日本風、混交文
●時代:神代〜推古朝
●資料とされたもの:『帝記』『旧辞』
●特長:壬申の乱に勝利した天武天皇の命によってつくられた個人的な歴史書であり、編纂者の太安万呂の個人的力量によるところが多い。詩的、物語的なのが特徴。上巻が神代、中巻が神武天皇から応神天皇まで、下巻が仁徳天皇から推古天皇までを記述。

【日本書紀】
●成立:720年(養老4年)
●天皇:元正天皇(第44代)
●選者、構成者:舎人親王が中心となって太安万呂らと編纂
●巻数:30巻
●記述:漢文、編年体
●時代:神代〜持統朝
●資料とされたもの:『帝記』『旧辞』『漢書』『後漢書』『淮南子』
●特長:古事記にはない舒明から持統天皇の時代まで記述し、大化改新によって律令制を成立させた新国家を称えている公式な歴史
書。「書にいわく….」という形で事例を引用、客観性をもたせているのが特徴。1、2巻が神代、3巻が神武天皇で、以後天皇の治世順に記述し、最期の30巻が持統天皇。

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