能、相撲など伝統文化にある「和」の動きで体づくり~すり足、四股、全身鍛える、関節柔らかく、姿勢もきれいになる

日本舞踊や能、相撲など我が国の伝統文化の動きを全身運動としてとらえ健康法に取り入れる動きが広がり始めています。
健康維持や体力増強につなげていくだけでなく、美しい立ち姿や所作を身につけることもできるのが特徴。
それぞれの専門家に、実践する上でのポイントなどを聞いてみました。

能楽
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両足に体重かける

能は「20キロ近い装束と、視界のほとんどを奪う面をつけて謡ったり舞ったりする」と、能楽師の櫻間右陣さん。
稽古では「それに耐えうる強靱(きょうじん)な体力」も養うことができる。

まずは基本動作の一つ、両足均等に体重をかけてまっすぐ立つ「かまえ」だ。

これが意外に難しい。
片方の足に重心がかかってしまうと、股関節やひざ関節の負担になり痛くなる。

次に「すり足」。
舞台で悠々と滑るように歩む姿が美しい。
ひざを軽く曲げて頭は決して上下しない。

「出て行く足に体が乗っかるように全体的に動く。腰は安定させて、足裏を見せないようにじっくりと歩くので外側の筋肉より内側の深層筋を使っています」。
想像以上に「すり足」は体力のいる運動になる。

日舞では、「すり足」で歩きながら、上半身は扇子で森羅万象を表現する。
この腕を上げる動きも、肩の関節の筋肉が衰えるのを防ぐ健康法になるという。
また、歩く際に自然にできる深い息の出し入れのおかげで「心身の濁ったものが澄み、新陳代謝が良くなっていく」そうだ。

さらに「見られている」という意識をもつことで、動きが「優雅なものに洗練されていく」。

大相撲の見どころのひとつが、美しい横綱土俵入り。
その「四股(しこ)」が健康法になることはよく知られている。

両足を大きく開き体の軸をしっかり取り、腰を低く落としてから片足を高く上げ、大地を力強く踏みしめる。
この一連の動きによって下半身の筋肉が鍛えられる。
股関節を広げることで、周辺のリンパ節が刺激され、全身の新陳代謝の促進、肩こりや腰痛の解消も期待できるという。

「一見、下半身しか使わない動きに見えますが、股関節を中心に背筋や腹筋、深層筋を使うので、体のバランスを左右対称に整えるという効果もある。一瞬の立ち合いが全ての取り組みには、強靱な下半身が重要」と貴乃花部屋の貴乃花親方。

肩こりと無縁になる

全身を躍動させる和太鼓も、健康な体作りにつながる多くの要素を持つ。
国際的な活動を展開している太鼓芸能集団『鼓童』(新潟県佐渡市)の舞台は、観客の多くが中高年。
彼らは「太鼓の大きな音と躍動感」に引き寄せられ、自ら習う人も少なくない。

和太鼓

和太鼓の基本動作は、片足を斜め前に出して両足を開き、股を割るようにして開いた足で立つ。
そして、へその下を意識して腕を上げ、そこからバチを打ち下ろす。

体の軸がぶれていなければ、芯をとらえた音が出る。
腕のみで打たず、ひざ、腰、肩甲骨、体幹を意識した全身運動だ。

全身を使った「和」の伝統の動きは、無駄や無理がなくなめらかで美しい。

「稽古を重ねた所作には洗練された優雅さがある」と名古屋学芸大学(愛知県日進市)教授の加藤和郎さん。立つ、歩く、座るなどの日常の動作、そして毎日のちょっとしたしぐさが、人をいきいきとさせて健康に近づけてくれる。
日々の暮らしに、和の動きを取り入れるよう意識していきたい。

和装が崩れない動きに起源がある

伝統的な「和」の動作はどのようにして成立したのだろうか。

明治時代より前の日本人はみな、着物が着崩れないように、自然とすり足になり、身体をひねらない動作をしていました。

着崩れないように動くことは、体の奥にある筋肉を鍛える働きがある。
上半身と下半身をつなぐ大腰筋が要となる。ここがしっかりすれば腰や膝への負担が軽くなり姿勢も美しくなる。
意識するのは「胸郭と骨盤を連動して動かすこと」。
胸郭と骨盤の連動によって腸の動きも正常に整うという。

※2014/07/26 日経プラスワンより

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