昔は八百屋や鮮魚店に行くと、その時にしか味わえない旬の食材を楽しみに購入したものですが、ハウス栽培や、物資の輸送能力が飛躍的に向上した現在では、好きな野菜、果物、魚介類などが一年中購入できるようになりました。
その影響で、旬のおいしさ、食べ物の季節感を味わう感覚が薄れて、食材に対するありがたみも無くなってきたように思います。
毎日、たくさんの食材が廃棄されているというのに、なんとも思わないという感覚もそこからきているのかもしれません。
「自然からの恵み」という意識がなくなり、人工的に加工されて腹を満たすための素材としか見れなくなってしまったのでしょうか?
初物の精気を体内に採り入れる健康法
食べ物の季節感を大切にした昔の人は、初物を食べると、寿命が75日延びると考えていました。
75日という期間の理由はわかりません。口に出して語呂の良い数字だったからとも言われていますが、75日間というと約2か月半。春夏秋冬で言うと、一つの季節を生き延びることを意味します。
おそらく、季節の味わいを口に入れると、その季節を健康に過ごすことができると考えていたのかもしれません。
江戸時代における江戸っ子の代表的な初物にカツオがあります。「女房を質に入れても食べろ」と言われたほどで、初カツオが入荷する5月ともなると、江戸では異常な高値で取引されたという記録が残されています。
本当にカツオがおいしい季節は「戻りカツオ」と呼ばれる、一度北海道まで北上してから関東沖へと戻ってくる10月ごろのものなのだが、初物を好んだ江戸っ子たちの気質は、初カツオを何よりも好む傾向が強かった。
代表的な初物としては、ほかにサケ、ナス、キノコがあり、カツオを加えて「初物四天王」と呼ばれていました。
人々は初物という響きから、溌剌と精気がみなぎった食べ物と感じていたはずで、それを体内に採り入れることで、自らの精気も充実して健康になると信じたと考えられます。