食事時に、お母さんが食器を食卓に並べていると、お腹が空いて待ちきれない子供は、早く食べさせろと食器を箸やスプーンで叩いて催促をしはじめます。
昔はご飯をお櫃にいれ、おかずも食卓に食器を並べてからよそったものでした。今ではキッチンでお皿の上に盛り付けられてから、食卓に運ぶのが普通になったので、このような子供の仕草はあまり見られなくなりました。
しかし、忘年会や新年会など宴会と称してガチャガチャと騒ぐ大人たちを見ると、茶碗を叩く子供と何ら変わりありません。
いつの時代になっても餓鬼とは恐ろしいものに変わりなく、この迷信がなぜ家庭で言われるようになったのか、考えてみましょう。
しつけのために引き合いに出された餓鬼
餓鬼とは、生前に悪行をし尽くしたために、死後に餓鬼道に落ちたとされる仏法上の鬼のことです。
昔から伝わる地獄絵図などを見ると、必ず登場するので知っている人は多いでしょう。
餓鬼は常に飢えと喉の乾きに苦しんでいて、隙あれば人間界に舞い降りて癒そうとします。
餓鬼にとりつかれると、その家の食べ物は食い尽くされます。そのため、餓鬼がとりついた家は金銭に苦しくなり不幸か訪れると言われてきました。
そんな餓鬼が、なぜ「茶碗を叩くとやってくる」と考えられるようになったのか。
これは、子どもの悪ふざけを直すための戒めとして、日本各地で言われるようになり、やがて迷信化していったものと考えられています。
子どもは、お腹が空いていると自制することができず、早くご飯を食べさせてほしいという欲求が茶碗を叩く行為となってあらわれても不思議ではない。
しかし、行儀の悪い行為であることは明らかで、それを諌めて、二度と茶碗を叩かないようにしつけるために、祖父母や両親が餓鬼を持ち出したというのです。
ちなみに、餓鬼という鬼は、昔の日本人にとって相当恐ろしい存在だったようです。
地方によっては、お盆のときには、自宅に招き入れた先祖の霊にとりつかないよう、家の外に餓鬼棚を設け、食べ物や水を供えて自宅への侵入を防ごうとする風習さえ生まれています。
恐い餓鬼を引き合いに出してまで、戒めようとした食事のマナーですが、大人になっても酒席などで調子に乗って皿や茶碗を箸で叩き、大合唱しているサラリーマンの姿を見かけることがあります。
子どものしつけだけでなく、大人への戒めとしても使いたい迷信です。