些細な意見の食い違いからヒートアップしていく夫婦喧嘩や恋人との喧嘩は、できれば避けたいものですが、お互い感情的になってくると冷静さを失ってしまい、身の回りにあるものを見境なしに投げ合うことさえ起こり得ます。
今では、lineを盗みいて悪事がばれて、スマートフォンを踏みつけて液晶を割るという喧嘩もあるようです。
物に当たるぐらいならいいのですが、相手に向かって投げるものは傷つけない程度に物品を選んで投げましょう。
そして、絶対にこれだけは投げてはいけないと昔から言われているものがあります。
古事記にも登場するくしの特別な霊力
身の回りにあって、投げやすく、縁起の悪い道具というのは髪をとかすときに使う「くし」のことです。
くしは日本では縄文時代から使われてきたなじみのある日用品です。
そして古くから日本人の間では、くしを投げると縁が切れると信じられてきました。
例えば『古事記』にはくしにまつわる逸話があります。
死んだ妻・伊邪那美命(イザナミノミコト)に会いたいと切望した伊邪那岐命(イザナキノミコト)が黄泉の国を訪ねたところ、そこには醜い女と成り果てた妻がいました。
伊邪那岐命はその醜い姿に驚いて逃げ出したが、追手の鬼女たちが迫ってきたため、持っていたくしを投げました。
すると、くしを投げた場所からタケノコが生え、追手の黄泉醜女がそれを食べている間に逃げることができました。伊邪那岐命はくしのお陰で難を逃れることができたという逸話です。
この逸話から転じて、くしを捨てると縁切れになるという迷信が生まれたらしい。
くしが持つ呪力と縁起
日本ではくしは別れを招くといわれていることから、贈り物にしたり、気軽に貸し借りをすることはしません。
昔は戦にでる男性に、魂の宿る頭に飾るものであることから、自らの分身として手渡す女性もいました。
日本語の観点から見た時は、「霊妙なこと、不思議なこと」という意味の「奇(くすし)」や「聖(くしび)」との音の共通性から呪力を持つものとして扱われました。
語の読みからは「苦死」に通じるため、道に落ちている櫛を拾うことは「苦と死を拾う」ことにつながり、縁起が悪いことと忌み嫌われます。
どうしても拾わなくてはならない時は、足で踏んでから拾うとよいとされています。
くしを贈り物にするときは、忌み言葉として「かんざし」と呼んでいます。
もともと、くしは神前に供える玉串の「串」と同じ意味合いを持っていました。
そんなくしを投げ捨てては、男女の仲も縁が切れやすくなると考えたのでしょう。
「髪は女の命」とよく言われるが、その髪にさすくしもまた、特別なパワーを宿した品として大切にされてきたことが、この迷信からもわかります。
だからくれぐれも、その人と別れると決めた以外の喧嘩の時にはくしを投げてはいけません。